■ 「現有戦力の底上げ」と、ピンポイントの補強
落合政権の中日は「現有戦力の底上げ」を基本方針にしていた。派手な大型補強はほとんどない。そのかわり、チームの弱点をピンポイントで補うために、他球団で実績のあるベテランをトレードや自由契約から獲得し、見事に再生させた。
他球団で戦力外になった選手、出場機会を失った選手。その技術を見抜き、自軍のピースとしてはめ込む。これこそ落合野球の真骨頂だった。
■ 再生の象徴、中村紀洋
落合政権のベテラン再生を語るなら、まずこの男から始めなければならない。
中村紀洋(2007年・オリックス退団後に育成契約でテスト入団/当時33歳)
2006年オフ、オリックスとの契約更改が決裂して自由契約に。移籍先が見つからないまま、2007年の春季キャンプを迎えていた。引退の危機だった。
近鉄時代の恩師・梨田昌孝さんが落合監督に何度も獲得を掛け合い、落合監督は一度は断りながらも、最終的に入団テストを兼ねたキャンプ参加と育成選手としての契約を認めた。年俸は400万円。かつての球界を代表するスラッガーが、育成選手からの再出発だった。
背番号は205。近鉄時代に愛着を持っていた「5」を200番台に入れるという、落合監督らしい配慮があった。オープン戦で結果を残し、開幕直前に支配下登録を勝ち取る。
そこからの活躍は誰もが知る通りだ。6番・三塁で130試合に出場し、打率.293、20本塁打、79打点。日本シリーズでは持病の腰痛を抱えながら打率.444と打ちまくり、53年ぶりの日本一に大きく貢献してMVPに輝いた。
どん底から日本一のMVPへ。これ以上の再生劇はない。
■ トレードで獲得したベテランたち
奈良原浩(2006年・日本ハムから金銭トレード/当時35歳)
堅実な守備と高い野球IQを持つベテラン内野手。試合終盤の守備固めやバント要員として、その年のリーグ優勝に貢献した。派手さはないが、こういう選手がベンチにいることで終盤の野球が締まる。
小池正晃(2008年・横浜から交換トレード/当時28歳)
中堅からベテランに差し掛かる時期に移籍。右の外野手、代打の切り札として、2010年・2011年の連覇に大きく貢献した。横浜では出場機会が限られていた選手が、中日で居場所を見つけた好例だ。
三瀬幸司(2010年・ソフトバンクから交換トレード/当時34歳)
最優秀救援投手の実績を持つベテラン左腕。左の中継ぎを厚くするために獲得され、ブルペンを支えた。
■ 自由契約・テスト入団から獲得したベテランたち
川相昌弘(2004年・巨人から自由契約/当時39歳)
「バントの神様」として知られた名手。巨人を退団した後、落合監督に直談判して入団した。内野陣の精神的支柱であり、代打・守備のスペシャリストとして2004年の優勝に貢献した。落合政権1年目の優勝に、巨人を出された男がいたことは象徴的だ。
佐伯貴弘(2011年・横浜から自由契約/当時39歳)
39歳での移籍ながら、代打の切り札やファーストのバックアップとして2011年のリーグ連覇を支えた。
河原純一(2009年・テスト入団/当時36歳)
浪人中からテストを経て入団。落合監督の評価で拾われ、中継ぎとして数々の修羅場をくぐり抜け、ブルペンを助けた。一度はユニフォームを脱ぎかけた投手が、優勝争いをするチームで投げる。これも落合監督の眼力だった。
■ 共通点は「役割」がはっきりしていたこと
この選手たちに共通するのは、獲得した時点で役割がはっきりしていたことだ。三塁のレギュラー、守備固め、代打、左の中継ぎ、ブルペンの穴埋め。「とりあえずベテランを取る」のではなく、チームのどこが足りないかを見極め、そこに合う選手を連れてきた。
そして本人たちも、自分の役割を理解していた。チームが勝つために自分にできることをやる。年俸400万円の育成選手から這い上がった中村紀洋はその最たる例だ。ハングリーさと役割意識があったからこそ、ベテランが優勝の戦力になった。
■ 中田翔と中島宏之、何が違ったのか
翻って最近の中日はどうか。中田翔と中島宏之。どちらも実績十分のベテランとして獲得されたが、期待に応えたとは言いがたい。
落合政権との違いは何か。私は役割の曖昧さだと思う。中田には主軸としての活躍が期待され、中島にも一定の出番が用意された。しかしチームの弱点を補うピースとして獲得したというより、「名前と実績」で取った印象が強い。若手の出場機会を削ってまで起用する意味があったのか、今でも疑問だ。
一方で、まずまず成功と言える例もある。楽天から獲得した涌井は先発ローテーションの一角として投げ続けた。そして一度は中日を離れ、楽天から再び戻ってきた阿部寿樹も、出戻りという形で戦力になった。ベテラン獲得そのものが悪いわけではない。問題は、何のために取るのかがはっきりしているかどうかだ。
■ 工藤新体制に求めたいこと
落合政権のベテラン再生術は、単なる掘り出し物探しではなかった。チームの弱点を正確に把握し、そこに必要な選手を、必要な役割で使う。その積み重ねが黄金期を作った。
工藤新監督のもとでも、オフにはベテランの補強が話題になるだろう。そのときは「名前」ではなく「役割」で選んでほしい。落合政権の成功例が、その答えを教えてくれている。
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